メキシコ学勉強会 講演 (千代田区和泉橋区民館) 2009.01.19 19:00-21:00
           チアパスから見えるもの:「液状化」の今       清水透

報告要旨
チアパスでは、この15年で先住民の村も都市も、かつて想像もできなかったほどに大きな
変化を遂げた。いわば<液状化>といった状況が今もつづいており、今後いかなる<方向を
たどるか予断は許されない。ただ、ひとつはっきりしているのは、征服以来、近代という時
代が築きあげてきた植民地的秩序が根底から崩れはじめ、その秩序のもとで固定化されてき
た先住民の意識と価値観にも、大きな変化が見えはじめていることだ。<近代>という時代
の<液状化>の姿が、今チアパスに象徴的に展開しているように思う。勉強会では、1979
年以来通いつづけてきたチャムーラ村とサン・クリストバル市の変化の様子をパワーポイント
で紹介しつつ、上記の私の思いをお伝えしたい。 T 植民地的秩序:16世紀野蛮観・空間認識 チアパス:征服に最後まで抵抗をつづけた地域のひとつ 近年にいたるまで、植民地的秩序が顕在的な形で最も頑強に維持されてきた地域 1.「他者」世界の自然化・「原生自然」(wilderness)化と領有 →領有と開発の対象としての自然=「他者」 →あるいは放置される自然 2. サン・クリストバル市の都市空間 3. チャムーラの空間認識 U 液状化の予兆 1.人口爆発と土地不足の深刻化: チアパス高地:1970年17.2万⇒2000年47.4万へ250%増 チャムーラ村:    358人/km2⇒ 718人/km2 2.チアパスの経済開発の活発化⇒就業機会の多様化       1970年代から水力発電開発・タバスコ州での石油開発・ユカタン半島の観光開発 村人の移動距離の劇的な拡大・外部世界との文化的接触の拡大 V 国家=カシーケ体制の揺らぎ 1.従来の3階層:カシーケ家族・小規模野菜栽培者、炭焼き・季節労働に依存する貧困層 2.新エリート層の台頭とカシーケ支配からの自立化      二重言語教師のエリート化(1960年代以降)       PRODESCH(チアパス高地経済社会開発計画)(1971年以降)       Plan Chiapas(1983以降)の村落開発援助政策           これらの政策の恩恵を受けた新たな事業家階層の台頭          チャムーラのコヨーテとアメリカ合衆国へのチャムーラの出稼ぎの拡大(1999以降) 3.宗教の多様化と村の分裂(追放)      伝統派と正統カトリシズムの対立:1966-69:Mision Chamula計画       プロテスタント諸派の拡大:1926年以降長老派教会の組織的伝道開始・34年以降のSILの活動(1953年259人・1972年367人)       チャムーラ村:1968年20家族改宗・72年80家族 W 追放問題と都市の変容   1.1972年反カシーケ同盟結成・73年村長選挙で伝統派と対立表面化・選挙の勝利と弾圧(74.01PRI候補強行就任)   2.1974年11月組織的追放開始、1998年末まで続く。(参考:1970年のチャムーラ人口約3万・1990年頃までに1.5万人が追放)   3.追放チャムーラの町への定住 4.町の<インディオ化> おわりに   1970年代はじめに開始するインディオ運動との明らかな相違   1992年「発見」の前と後:世界的なマイノリティ運動の台頭 世界的人の移動と都市の包摂力の減退
●この流れのなかで、マンギビート(レシーフェで1990年代発生)、アイヌレベルズ(酒井
美直・厚司兄弟を中心に2006年結成)・ZinacantanのDamian & Rieの楽団(2008年結成)・
沖縄音楽集団、在日四世の文化運動はどのような位置にあるか? 1990年代以降の世界的なマイノリティ文化の自己表現―政治的回路・エリート文化的回路で
は解決不可能な問題の新たな文化的回路―の新しい形式?
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